冒険の始まり
夫の友人夫婦が引っ越しをした。
新築の、ひろーくって・綺麗で・明るくってなにもかも申し分がないのに、
家賃がとーっても安い!
50㎡2室のアパートで2児を育てるのに、何かと不都合を被っている私の口癖、
「もう一部屋あったらなぁ」
「せめて間取りがもうちょっと良かったら」
「あぁ、やっぱ、引っ越ししたーい!」
にいつもは全く取り合わない、めんどくさがりで合理主義な夫。
だけど、その友人宅を訪れ、かの引っ越し譚を聞くに至って
「こんなアパートに住めるなら、ちょっと頑張ってもいいかなぁ」
という気がもたげてきたらしい。
私の方は、夫のOKは出るし、友人の引っ越し成功例を目の当たりにして、
すっかり気をよくし、なんの当てもないが、とりあえず大家に引っ越し予告をする。
フランスでは、引っ越す予告を最低3ヶ月前には大家へ書類で届け出なければならない。
引っ越し先も決まってないのに「3ヶ月後には引っ越します」と宣言するなんて、
日本人的感覚からすると、一種ギャンブルのような危険性を感じる。
しかし、出先が見つからずに困ってる賃貸人に
「3ヶ月経ったから必ず出て行きなさい!」と追い出すような話は聞かない。
逆に、予告せず「すぐ出ていきます」と言う話になった場合に、
大家の権利だからと3ヶ月分の家賃を請求された、という方は聞く。
で、とりあえず、先に引っ越し予告を出すのが、この国のやり方。
まぁ、とにかくコレで、引っ越ししたい旨が公になったのだ!
なんだか、新しい冒険でもするかのような、ワクワク気分。
おぉっ!
いい家を見つけようぜぃ!
9月、そろそろ秋風の吹き始めたパリでのお話。
こんにちは、不動産屋様…。
引っ越しをただ夢見ていた頃、不動産屋のウインドゥにかかる素敵な物件は、
すべて、私の物。よりどりみどり。
私たちに借りてもらうのを待って、ほほえみかけているようにさえ感じていた。
が、が、、しかーし…。
世間の風は冷たかった!
そして私は、世間知らずだった!
今住んでいるカルチェがお気に入りで、引っ越しするならこの界隈と、
近所の不動産屋を当たる。
それまで、ウインドゥごしに眺めるだけだった、
なかなかよさげな物件の見学を取り付けようと、
期待いっぱいに不動産屋ののれんをくぐるが、たいがい、
「あ、それは、もう決まってるんですよー」。
じゃぁ、なんかいい物があったら知らせてくれますか?
「いやぁ、しばらくは無いと思います。特に3部屋の物件はね。
万が一あったとしてもすぐに売れてしまうし…
良かったら、遠慮せずに毎日でも電話してくださーい。」
で、電話番号を記した名刺を渡されて、ハイ、おしまい。
どこでも、ここでも、かしこでも!この反応。
それもそのはず。
9月といえば、一番引っ越し・移動の少ない時期。
だって、9月の新学期に向けて引っ越しシーズンが4月頃から始まって、
ピークはバカンス前、遅くても夏休みのうちにみんな移動しきってしまうんだから。
それでも気まぐれな学生・独身者なんかの借りる小さなアパートならまだ望みはあるが、新学期早々引っ越ししたがる家族なんて、いないよね~、普通。
うっすらと、その辺の事情を知っていたつもりだったけど、これほど、無い!、とは!!
負けるな、じゅぬびえーぶ!
それでも、こんな始めでしょげててはいかん!
と、不動産屋のアドバイスに従い、毎日何件も電話する、店先にも顔を出す、
の地道な活動を繰り返す。
しかし、無い物は、無い。
人間不思議なモンで、別になんの悪意のある扱いを受けたわけでもないのに、
こうも希望をくじかれ続けると、気持ちはずずーんと沈んでしまう。
「私のことが嫌いだから、いい物件があっても、紹介してくれないんだわぁ(涙)。」
なんて、根拠不明ながら、だんだん、人間不信的な気持ちにもなってくる。
季節は、だんだん秋の気配も深まってきて、空模様も、陰気だ。
そうこうしているうちに1月がたち、気持ちを切り替えて、日系の不動産屋にもTEL。
だけど、やっぱり、不動産事情は同じ!無い!
まず、私たちの希望する、現在の住まいのカルチェという物件がそもそも無い。
はっきりと「パリの14・15・16区あたりしか扱ってない」といわれて、がっくり。
それでも、この際地区が変わっても、と3室で予算の希望をいうと、
鼻でせせら笑われてしまう。
「そんな、安い物件、うちでは扱ってまへん」ってなモンだ。
不動産屋だけでなく、勿論、不動産情報雑誌と新聞もチェック。
だけど、なかなか希望にぴったりの物件はない。
何件か見学予約を取り付けるべくTELするが、その時点ですでに決まってしまっていたり、連絡不能だったり、振られてばかり。
まだ1件も見学にも行けていない。
あーぁ、どうするべ。
朗報!!!
あちいへこっちへと走り回る私を尻目に、夫はというと、その間のほほんとしたモンだ。
任せた、という気なんだろう。いい加減な奴だ。
奴がある日、ぽつり…
「インターネットで、こんなんあるでぇ~」
なんと、ネット上で賃貸物件が探せるサイトがあるのだ!…って、
考えれば、当然だよねぇ。
コレがすごい情報量。
これの利点は、地域や不動産屋を越えて、物件を探せるという点。
情報提供は、あちこちにある不動産屋。
大概、自分の住みたい地区・部屋数・予算etcを打ち込んで検索し、
それに当てはまる物件がずらーっとでてくるので、
そこからさらに1件1件の詳しい情報を見られる、という仕組みになっている。
我が家の探している物件は、たとえば、こんな風。
①場所;今住んでいるカルチェ、11・12・20区が該当地域。
②広さ;3室以上、60㎡以上
③予算;家賃6500Fr(管理費・税、すべて込み)以内。
④設備;エレベーター、浴槽、中央暖房、台所はガス、地下室、地階と1階はイヤ、
あればバルコニー
こんなわがまま放題が、ネット上では、誰にはばかること無く、じっくり検索できるのも、
快適。
いくつか同じようなサイトがあるのだけど、コレをチェックするのが、
近所の不動産屋巡りに加え、私の日課となった。
しかし、夫よ。
もっと早くに教えてくれよ。
訪問。
ネット上で検索し、あれだけの物件が羅列してあると、
さすがに何件かいいと思う物が目に付く。
で、電話。
顔をつきあわさない、ネット+TELのやりとりで、約束をすっぽかされたり、
?な対応も多かったり、色々貴重な体験を日々するが、
やっと、やっと、念願の物件訪問にこぎ着けた!
うきうき、ワクワク、楽しい見学。
だけど、実際行ってみると、日当たりが悪かったり、内装がぼろかったり、
問題ありでダメなこと多し。
でも、一番問題なのは、明らかに問題な部分以外に、
今のアパートと比べてコレがダメ、とかいう見方をしてしまいがちなところ。
すべての点で、今以上のところ、なんて、望むべくもないのに、全く欲張りさんだ。
で、まぁ、いいたいことは色々あるけど、こんなトコでいいだろう、
借ります!という決心を申し出たところ…
これまた、すんなり行かないことが、発覚。
当然のことながら、不動産屋・大家にだって、
賃貸人を選ぶ権利はあるのよ…失念してたけど。
曰く「家賃の4倍以上の収入がないとだめ」
曰く「賃貸人以上の収入がある、保証人が必要。」
曰く「社長はイヤ」
曰く「会社員と専業主婦のカップルより、共働きのカップルに貸したい」
etc、etc、etc…。
で、断られ続ける…。
くくぅ~、悲しいぜぃ。
しかし、めげない!
すでに2ヶ月半が過ぎ、大家にはもう1ヶ月引っ越しを延ばしてもらう旨連絡を入れ、
地域をうちのカルチェ以外に、14区のダンフェール・ロシュローあたりにも手を広げる。
おまけに、「友人宅の近所なら」と郊外にまで、飛び出してみる!
ひたすら、TELして不動産屋とコンタクトを取り、物件訪問、の日々!
季節は、すっかり、年末。
寒い、暗い。
子供2人を連れての物件巡りは、つらい!
振られてばかりの状態で、人間不信も深まる一方!
友人達が情報提供や通訳をしてくれるのは勿論、
友人の旦那さんまで一緒に不動産巡りをしてくれたり、迷惑のかけどうし。
そうして見学した9つの物件を、公開!
終章。
ダメ、でした…引っ越し断念。
だけど、悔いはないよ、夢やぶれても。
心ゆくまで、不動産と渡り合い、物件見学をし、友人にも迷惑をかけまくり、
フランスの住宅事情を骨身にしみて体験したおかげで、
心地よ~くあきらめることができました(←強がり(笑))。
もう4ヶ月も、あれだけ走り回って、神経すり減らしたら、上等でしょう、ってな感じ。
しかし、こういう苦難に敢えて挑んでみると、周りの人たちの優しさが身にしみるねぇ。
みんな、親身になって、力を添えてくれました。
この場を借りて、お礼いっちゃおーっと!
皆さん、情報提供から、直接の交渉、励まし、慰め、本当にありがとうね。
振り回して、ゴメンね。
おかげで、心身症に陥ることなく、戦え抜けましたよ(笑)。
かくして、2室50㎡のアパートで、一家4人、今年もパリの夏を迎えるのであった。
コレも何かの縁、だよなぁ。
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